leaf's blog

記録しておきたい文章を綴ります。

『村上ラヂオ 2』村上春樹

 

2011年に雑誌アンアンに連載されたエッセイの文庫本。

2000年連載の『村上ラヂオ』から10年後、同じ大橋歩さんがイラストを担当。

若い女性という読者に忖度することなく、日付がないので、3月11日の震災の後に書かれたエッセイはどれかは、知るよしもない。

奥さまが自宅で揚げ物をしないため、牡蠣フライを食べたくても一人で食べるそうだ。(お一人様の牡蠣フライ)。やはり揚げ物は揚げたてに限るので、外食より自宅なのだ。我が家は、同居人が牡蠣フライを受け付けないため、やはり食べたくても牡蠣フライは遠ざかる。以前、外食や持ち帰りで牡蠣フライを食べたことがあったが、「揚げたてだったらな~」と夢想する。揚げ物の洗いもののことを考えると、同居人のように完璧にできない私は、自宅で揚げるというのは暴挙に等しい。

ああ、牡蠣フライでグダグダ書いてしまった。読者層の若い女性は、どの程度、牡蠣フライを自分で揚げて食べるのだろう?

母の通院の付き添いのお供としては、よいチョイスでした。

『THE SCRAP』懐かしの1980年代

 

文藝春秋発行の雑誌『スポーツ・グラフィック・ナンバー』に1982年~86年に連載されたエッセイ集。この連載期間中には、編集部が、アメリカの雑誌・新聞が送られてきた。そのスクラップを日本語で原稿にまとめる。

筆者は小説『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を日本で書いていた。しかしこのエッセイ集は、出典がアメリカの記事によるもののせいか、全編、アメリカ文化論考となっている。映画もゴーストバスターズスターウォーズが取り上げられている。

巻末に、東京ディズニーランドの開園直後レポートが添えられている。「だいじょうぶです。面白いから」と言い得て妙。

私が大学卒業の頃、開園し、サークルの同級生と「卒業旅行」をした覚えがある。「魅惑のチキルーム」や「カントリーベアジャンボリー」を語りあえる人はなかなかいない。

スポーツ誌なのにロス五輪の観戦記を冷めた目で書いているのには「これが許される立場なんだな」。

 

 

 

『ものいわぬ農民』大牟羅良

 

図書館で予約して。何で予約したか忘れてしまったので、ググったら、朝ドラ「ブギウギ」の主演趣里さんがインタビューに答え、夫役の水上恒司さんが待ち時間に読んでいたと発言し、この本が急に動き出したと。これに違いない。

筆者は日本のチベットと言われた岩手の農民を、行商しながら4年間訪ね歩き、その後農民の声を活字にした雑誌「岩手の保健」を編集。

「その行商4年の体験と、編集者生活7カ年によせられたいろり話しを元にしてできたもので、私の著書というより、むしろ村人との共著だといっていい」とまえがきに書いている。

農家では誰がお財布を握っているか、世間体をどれだけ気にしているか、稗メシでも空腹時にはおいしかったとか。

中央政府の調査報告がいかに粉飾されてもので「紙に書かれている農村と生きている農村」には大きな乖離がある。

講演会の開会の挨拶の美辞麗句は、全く正反対のことを、なんのわるびれるところもなくはなしているとおかしな話しだ。と指摘しつつ、筆者は笑うことができないと。腹にあることは言わずに頭にあることを言うのが常態だと思うからだと。

こういう内容の本を、出番待ちに読んでいる俳優水上恒司、ただ者ではない。

『実録 マリウポリの20日間』

2022年2月、ロシアがマリウポリに侵攻した。AP通信の記者が、その前日から現地に入り、カメラを回し続けた。20日間の貴重な記録が、長編ドキュメンタリーとして公開され、2024年3月のアカデミー賞も獲得した。

病院に担ぎ込まれる人、逃げ惑う人、命尽きる人、家族を見送る人、話しをすると涙が出てしまうので、話せないという人、鎮痛剤不足のため、治療の痛みに声を上げる人。

自宅を追われ、4時間歩き続け、まだ歩くしかないと語る老人。店が攻撃され、残った商品を奪おうとする人を追い払おうとする店側とウクライナ兵。「なんでこんなことするんだよ…」。

記者はロシアに捕まってしまうと、映像すべてが「フェイク」とされプロパガンダに利用されてしまう。それだけは避けたいと、最後の出国を試みる。

残ったのは、誰も望んでいなかった廃墟。

すべての人に観て欲しい映像。

BSドキュメンタリーとして前後編を視聴。2023年12月に放映され、4月にアンコール放送。監督のアンコールはこちらに。

www.nhk.or.jp

『スプートニクの恋人』(再読)村上春樹

 

『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』という筆者へのインタビュー集に、1999年島森路子さんが聞き手となって『スプートニクの恋人』について語っている箇所があり、自分の読みの浅さを実感し、再読。

出だしのワン・パラグラフを、あるとき、なんとなく書いちゃったんです。

「ぼく」と「すみれ」と「ミュウ」の三人だけを設定した。

全部隈なくネジを締めてみようと考えた。

最初は何も決まっていない。(インタビュー集より)

村上春樹の良さは、ストーリーの押しつけがないところだ。

登場人物が最後にどうなったのか、読者の想像に委ねるところがある。特に「すみれ」。後半はギリシャに舞台が飛び、それは筆者が10年ほど前に滞在した蓄積を寝かせてようやくここで出してきた。

そして最後に教え子の「にんじん」が出てくる。終わり(結末ではない)に向かって欠かせない役割を果たしている。

村上春樹の長編は、やはり幾度も読み返したくなる。

インタビュー集とその原作を行き来しているので、今後、ブログにアップできるペースは遅くなってしまう。

『ラオスにいったい何があると言うんですか?』村上春樹

 

1995年のボストンでのランニング生活から、2016年の熊本再訪までを1冊にした紀行文集。2018年に文庫本化。

アイスランドの温泉、ニューヨークのジャズクラブ、シベリウスカウリスマキを訪ねたフィンランド地震の前後に訪れた熊本。

くまモンの考察も、担当者へのインタビューも掲載されている。

吉本由美さんが熊本に移住したことを初めて知った。スタイリストとしての彼女の仕事が掲載されている雑誌を、よく眺めたものだ。

ほとんど事前準備をしないまま、行き当たった出来事を記録している。

世界中に読者がいることもよくわかる。

 

『恋しくて』村上春樹編訳

 

村上春樹を読む一環で、プックオフオンラインで入手。

筆者は、文章修業の一環として、翻訳を捉えている向きもあるのかもしれない。

エッジの効いた文章のジャブ、本文に則しているのか、人名表記が名字になったり、ファーストネームになったり。これには困惑したが。

9編の短編ラブ・ストーリーが取り上げられ、それぞれに「恋愛辛苦度」が★でついている。村上春樹の感想と共に。

そして、村上春樹の「恋するザムザ」。カフカの「変身」の後日譚のようなものらしい。ホントにせむしの少女に恋しちゃったのかな?