leaf's blog

記録しておきたい文章を綴ります。

『約束された場所で』村上春樹

 

約束された場所で (underground2)

約束された場所で (underground2)

 

 オウム真理教による地下鉄サリン事件で、死刑を執行された7名の報を受け、教団側のインタビューをまとめたこの本を入手して、改めて考えてみた。

何らかの方法で、不規則発言を繰り返す松本智津夫に、検察と司法が真相究明のために語らせる方策を取って欲しかった。遺骨を4女に託した死刑囚は、相応の思考力、判断力を持ち合わせていたと思われ、家族に対する思いもできるだけ語らせて記録に残すべきだった。

そして、彼の死刑を執行してから、他の6名の死刑囚にその事実を告げ、現在の心情を語らせ、それもすべて公開すべきだったのではないか。

本書を読んで、自己を持ち続けることの生きづらさとひきかえに、上からの命令に服従することの平穏がオウム信者にみられたが、それは官僚、会社、軍、学校、どの組織でも多かれ少なかれ存在することではないか。そこから自己を遠ざけるには、ひきこもるか、独自の功績を挙げるかないのかもしれない。
物静かな人こそ、確固とした自分を持っている人と思えてしまう。

 

 

『送り火』高橋弘希

芥川賞受賞作。ストーリーは、まったく前知識なし。

東北の過疎地で繰り広げられるいじめ。

いじめの手段は、「昔ながらの」と思わせながら、作者のオリジナル。

ここには「魂の救済」がなかった。

都会も田舎も、変わりはない。

男の子だから、危ない橋もわたる。

情景描写はよく練られているのだが。

『盲目的な恋と友情』辻村深月

 

盲目的な恋と友情 (新潮文庫)

盲目的な恋と友情 (新潮文庫)

 

  図書館で予約して借りた一冊。

学生オケに属する主人公が経験した学生指揮者との恋を、前半は当人が、後半は友人が、それぞれの立場で綴る。

恋に嵌るまでの経緯が、当人同士ではない、指導者、親、愛人の策略によるものであることが、そもそもぶっとんだ設定。ただの美男美女のカップルのストーリーでは終わらない「盲目的」ぶり。

そして、それを見守るはずの友人の何と屈折している思い。

ブラバンにいた自分にとっては、ちょっと「あるある」。

『あの人が同窓会に来ない理由』はらだみずき

 

あの人が同窓会に来ない理由 (幻冬舎文庫)

あの人が同窓会に来ない理由 (幻冬舎文庫)

 

 幻冬舎文庫の新刊リストを眺めていて、タイトルに魅かれて、ポチしてしまった。
同窓会のつきあいが、40越してから復活した私にとっては、「あるある」の連続。

幹事役、来る側、来ない側、どちらの気持ちも「やっぱり」。

でも、中学のたった一年で、ここまでのつきあいはなかなかできるものではない。

高校3年間同じクラスの同窓会でさえ、「初めて話した」人のなんと多いことか。

文庫一冊分のストーリー展開に、もどかしさも覚えるが。

 

『鍵のない夢を見る』辻村深月

 直木賞受賞作の文庫版を図書館で借りて。

鍵のない夢を見る (文春文庫)

鍵のない夢を見る (文春文庫)

 

 こんな小説が読みたかったのだ。

青春小説でも恋愛小説でもなく、生身の女性が触れるほどに描かれている。

「ヒロイン」はいらない。

等身大の危うさや身近な体験の掘り起こし、思い出の宝箱に入っているそれぞれが時を経るにつれ、違った色の輝きを見せることがある。

巻末に同郷の林真理子との対談が掲載されている。音楽も文学も、好きなものばかり読んでいては陳腐になる。時折新しい風を採り入れないと。

『明治ガールズ』藤井清美

 

明治ガールズ 富岡製糸場で青春を

明治ガールズ 富岡製糸場で青春を

 

 2月の神奈川県高校入試の国語で取り上げられた作品。

松前藩から選ばれた女工たちが、富岡製糸場で全国から集まった女工たちと苦楽を共にした1年5か月を中心に、故郷松前に作られる六工社のために学んできた技術を惜しげもなく捧げるまでを描く。

故郷に残してきた奉公人との恋物語の行く末も案じられる。

製糸場の描写をメートル法で書いていることに違和感を覚えたが、仕方のないことか。
せめて本文は尺貫法で表示し、カッコ付きでメートル換算すればよかったのに。

資料として、この主人公、横田英が綴った「富岡日記」という
ものがありネットで読める。

https://cruel.org/books/tomioka/tomioka.pdf

熊谷に片倉シルク記念館があり、何度か足を運んだ。

富岡製糸場片倉工業に払い下げられ、1939年から2005年まで片倉工業株式会社は、富岡製糸場の民間最後のオーナーを務めた。
今は地元に提供され世界遺産となっている。

https://www.katakura.co.jp/tomioka.htm

「お仕事ガールズ小説」として、読みやすい一冊である。

『長いお別れ』中島京子

 

長いお別れ (文春文庫)

長いお別れ (文春文庫)

 

 以前から読みたかった本が図書館で借りられた。今は予約待機者ゼロ。
10年に渡る父親の闘病記。

妻、3人の娘、孫、と認知症を患う父親を巡る人間模様。

現実には暴力、徘徊、施設入居に至る逡巡など、エスカレートするケースもあるらしいが、その世界を知っておくには最適。

同窓会にたどり着けなかったのがこの父親の認知症の端緒ということだが、7回忌を過ぎた父もそうだったようだ。我が家も10年近くの「長いお別れ」ができたと思える。

亡くなるときは涙が出なかった。母も同じで、大泣きしていた姉と「何が違ったんだろう?」とよく話す。

母にもぜひ紹介したい。